募集を開始し、概要書を確認した買い手からご面談の要望をいただき、いよいよトップ面談へと進みます。これは、売り手と買い手が初めて直接顔を合わせる、いわばお見合いの場です。
「何を話せばいいのか緊張する」
「下手に喋りすぎて、せっかくの好評価を下げたくない」
そんな不安を抱えるオーナー様も多いですが、実はトップ面談において買い手が見ているのは、決算書の数字だけではありません。アドバイザーの吉田が成約率を高めるために、「この先生から譲り受けたい」と買い手に感じていただくためのポイントをお話しします。
目次
買い手は、数字や資料だけでは分からない「リスクの有無」と「経営者の誠実さ」を確かめに来ます。
学習塾は、製造業のような設備ではなく「人」と「地域からの信頼」が資産の大部分と言っても過言ではありません。買い手が最も恐れるのは、譲渡した直後に「先生たちがオーナーチェンジで一斉に辞めてしまった」「聞いていた話と違い、トラブルが発覚した」という事態です。
そのため、オーナー様がどれだけ誠実に塾の現状を語り、塾のことを把握しているか、またこの塾を作った人となりを注視しています。「この先生が育てた塾なら、引き継いだ後も安心だ」そう思っていただくこと、「想定通り今後の自分次第もっと伸びる塾だ」と感じていただければトップ面談の目的は達したと言っていいでしょう。
「昔は生徒集めに本当に苦労した」という思い出話も大切ですが、買い手が最も聞きたいのは「なぜ今、生徒が集まっているのか」という仕組みや「いかにして生徒が集まり始め、どう維持したきたか」です。
こうした「自分が去った後も、買い手がその成功を再現できる根拠」を語ってください。買い手は、自分がバトンを受け取った後の「明るい未来」をイメージしたいのです。
ネガティブな情報は隠すほど後から大きなリスク、ディスカウントの口実になりえます。
「実は近隣に大手塾が進出しましたが、うちは指導報告書の細やかさで差別化し、退会を最小限に食い止めています」
このように、課題を「現状の対策」とセットで自ら開示することで、買い手の不安を払拭し、信頼を勝ち取ることができます。
「このオーナーは隠し事をしない」という信頼を構築することは、買い手の調査負担を軽減し、交渉のスムーズさに直結します。
「健康上の理由」「後継者はいないが、地域に塾の灯を絶やしたくない」「新しい事業に挑戦したい」など、譲渡の理由は明確に、かつ一貫性を持って伝えましょう。
理由が不透明であったり、方向性がぶれるようだと、買い手は「何か言えないような譲渡理由があるのではないか」と疑い始めます。
これによって痛くもない腹を探るように、経費の詳細数字を微に入り細に入り確認されるような、買い手自身の目で全て確認しなければ安心して交渉できないといった姿勢になってしまいます。
もちろん全ての買い手がそうであるとは限りませんが、M&Aが投資である限り、買い手はリスクを最も恐れ、より確実性のある案件に手を伸ばします。
日本人特有の「謙遜」が、M&Aの場ではただただマイナスとなることがあります。私が過去に立ち会った、ある非常に優秀なオーナー様のエピソードをご紹介します。
その塾は、地域密着型で高い合格実績を誇り、買い手候補も非常に前向きでした。
しかし、面談の席でオーナー様が、買い手からの「素晴らしい実績ですね」という称賛に対し、ついこう応えてしまったのです。
「いやいや、たまたま運が良かっただけですよ。その年は優秀な生徒が多かったんです……」
オーナー様にしてみれば、初対面の相手に対する礼儀としての謙遜だったのでしょう。
しかし、これを聞いた買い手からすれば、「実績は実力ではなく運なのか?」「オーナー自身が価値がないと言っているのか?」と不安になり、結果として「運営の再現性が低い」と判断され、見送りにならなかったものの、最終的な提示額が大きく下げられてしまったのです。
M&Aは価値の売買です。あなたが自塾の価値を提示しないことは、買い手の決断を否定することに繋がります。
もちろん誇張を推奨しているわけでも、実績を大きく見せる必要があるわけでもありません。
「ありがとうございます。講師たちが〇〇という努力をしてくれた結果です」と、素直に受け取りつつも、買い手へ譲渡した後も継続されることを示唆することが大事です。
面談の場の雰囲気が良くても、以下のような発言には注意が必要です。
トップ面談の勝率は、当日のトークスキルだけではなく、事前の整理も重要です。
まずは、自分の塾の「強み」を3つ、具体的なエピソード付きで思い出してみてください。そして、譲渡後にあなたがどれくらいの期間、どのように新オーナーをサポートできるか、引継ぎ期間のイメージを考えておきましょう。
全ての買い手が今の塾を可能な限りそのまま譲受したいのです。
そのために引継ぎによるソフトランディングが必須であり、買い手が一番準備にこだわる点です。どうすれば生徒も講師も離脱なく譲渡をすることができるか事前に考えておきましょう。
また、買い手についての情報があればホームページを読み込み、彼らの教育方針のどこに共感したかを一言添えるだけで、「この人はうちへの譲渡を本気で考えてくれてる」と、心の距離は一気に縮まります。
トップ面談は、あなたが一方的に審査されるだけの場ではありません。あなたが命を削るようにして育ててきた塾の魂を、誰に託すべきかを、あなた自身が選別するための大切な場でもあります。
ここまで「相手にどう思われるか」「自分の塾の魅力をうまく伝えられるように」とお伝えしてきましたが、実際には買い手も同じように評価される立場にあります。
「この人に任せていいのか」「本当にこの塾を大きく、より成長させたいと考えているのか」、オーナー様も確認をすべきなのです。
買い手が信頼できる方なのか確認しようとすることは、買い手からしてもオーナー様の譲渡への本気度が見えるタイミングでもありますので、「買う側を値踏みするとは失礼だ」だと思われることはありません。
M&Aは双方向のアクションであり、お互いによく見られたいと思い、よく見せるように振る舞うものです。納得のいくバトンタッチを実現するために、不本意な伝わり方や、無意に評価を貶めることがないよう我々アドバイザーがサポートします。
よき譲渡のために最高の準備を一緒に進めていきましょう。
この記事の著者

M&Aアドバイザー 吉田諭
首都大学東京都市教養学部機械工コース(東京都立大学 システムデザイン学部 機械システム工学科)卒業後、大手教育系企業、建材メーカーを経て、株式会社インフィニティライフに参画。学習塾M&A事業のアドバイザーとして、80件以上の学習塾案件を支援、30件程度を成約に導いた。
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